こんにちは、はてはてマンボウです。今回はマンボウも大好きなフェルメールについて解説してもらえると聞いています。
梓「マンボウちゃん、フェルメールってどんなイメージ?」
マ「あ、連理梓さん。そうねえ、部屋の中で女の人がなにかしている様子を描いているような。牛乳そそいだり、こっちを向いていたり」
梓「実はそこに描かれている一つひとつのしぐさや事物に意味があるんだ」
マ「まぼ。その意味がわかったら、もっとフェルメールがおもしろくなるかもしれませんね、はってはて♪」
フェルメールを日本で見ようと思ったら?
梓「大塚国際美術館にはフェルメールの代表的な絵画の複製があるんだ」
マ「原寸大で再現してあるんですよねえ。実際に見てみると、意外と小さくて驚きます」
☆大塚国際美術館 概説「丸1日楽しめる世界の絵画╿徳島県 鳴門市の大塚国際美術館」
↑「大塚国際美術館ってどんなところ?」という方はこちらをチェックしてくれ~まあんぼう~
梓「そしてもう1つが『リ・クリエイト』というプロジェクト」
マ「リ・クリエイト、はて。作り直すということですか」
梓「新しいデジタル技術と印刷技術で、当時の筆致と色彩を取り戻す、というのがコンセプト」
梓「上がリ・クリエイト・下がアムステルダムのオリジナルだ」
マ「たしかに、本物と比べても、色味が鮮やかになっているような」
梓「日本のいろいろなところで不定期に実施しているから、チェックしてみるといいよ。さて今回は、このリ・クリエイトされた作品からフェルメールを解説していこう」
ドラマチックなバロック! でもフェルメールは穏やかで……
梓「さて、フェルメールが活躍した時代はいつだったかな、マンボウちゃん」
マ「バロックの時代ですね。何世紀だったかは忘れましたけど」
梓「ざっと17世紀前半だよ。さて、バロックのキーワードは?」
マ「宗教改革! 新しくプロテスタントが出てきたから、カトリックには布教のためにドラマチックな絵画が必要だったんですよね」
梓「そのとおり。バロックは、対抗宗教改革に後押しされた美術。劇的な明暗表現でドラマチックに絵画が描かれた。その一方、プロテスタント世界では穏やかな絵画も見られた」
《解説》激しさと静けさがまじりあう╿絵画を語るとき我々の語ること④バロック
↑「バロックをもっと知りたい!」という方は、こちらの記事もチェックしてくれ~。まあんぼう~
梓「フェルメールが活躍したオランダは、プロテスタント中心の社会だった。パトロンは教会ではなく裕福な市民層だから、これをターゲットとした肖像画や風俗画が好まれた」
マ「たしかに、カラヴァッジョみたいな派手な絵はないですよねえ」
梓「サイズも全然違うからね。『キリストの埋葬』は3メートル×2メートルだけど、フェルメールには縦横が1メートルにも満たないが多い」
絵画のジャンルにもランキングがあった!? 歴史画が支配するアカデミー
梓「と言いつつも、フェルメールもいくつか歴史画を手掛けている」
梓「聖ルカ組合という芸術家の組合にフェルメールは入るんだけど、その入会にあたって描いたと言われるのが『マリアとマルタの家のキリスト』。ルカ福音書からのエピソードを題材にしている」
マ「どうして聖書を題材にしたんですか」
梓「伝統的に、絵画世界でもっともすぐれたテーマとされたのが、歴史画だったからだ」
マ「歴史画、はて」
梓「聖書や聖人、あるいはギリシャ・ローマ神話にまつわるエピソードをテーマとしたのが歴史画。絵画アカデミーの花形だった。このあとに、肖像画、風景画、静物画、生物画と並ぶ」
マ「偉い人たちに認められるために、歴史画を描くこともあったんですねえ」
カメラ・オブスクーラ、ウルトラマリンブルー……フェルメールの技法の数々
梓「これはフェルメールが生涯のほとんどを過ごした街、デルフトを描いている」
マ「バロックの時代から、風景画もだんだんと増えてくるイメージがあります」
梓「ルネサンス初期までは『歴史画のシーンを表すもの』ぐらいの認識しかなかった風景だけど、だんだんと風景そのものを主役とした絵画も生まれ始める。さて、フェルメールがその絵画で使われたと言われているのが、カメラ・オブスクーラ」
マ「はて。カメラみたいなものですか」
梓「カメラの語源になったものだね。遠近感のはっきりした図像を作るための参考にしたようだ。話すと長くなるから、詳しくはWikipediaを参照して」
マ「はて、『牛乳を注ぐ女』がアップに」
梓「カメラ・オブスクーラの効果の副産物が、この光の粒。ポワンティエと呼ばれる手法で、カメラ・オブスクーラを通したときに見られた光の粒をそのまま絵画に描いたと言われている」
マ「あたしゃてっきり、セサミパンが描いてあるのかと思ってましたよ、ゴマが描いているのかと」
梓「セサミパン……」
マ「は、はてはて! ええと、その、ほかの絵にはない、独特な光の感じが生まれていますねえ、おほほ」
梓「さてこの風景画。平面のなかで、横軸に平行な構図が特徴だ」
マ「あ、そういえばたしかに。マリオがジャンプしていても違和感がないかもれません」
梓「この左右へ平行に広がる構図は、その他の絵画にもフェルメールの特徴として表れてくるよ」
マ「あ、たしかに、横へ広がっている感じがあります」
マ「フェルメールといえば、この絵ですよねえ」
梓「フェルメールの絵画に使われているのが、通称『フェルメール・ブルー』とも言われているアラビアの宝石ラピスラズリ。海を越えてやってきたので『ウルトラ・マリン』とも呼ばれる」
マ「宝石が元だったら、すごく高い絵の具なんじゃ」
梓「そのとおり、すごく高い。実際、フェルメールは寡作なこともあって稼ぎも少なく、その日のパンを食べるにも困るほど貧乏だったそうだ。奥さんの実家から援助をもらっていたそうだよ」
絵画の中のアレゴリー
梓「マンボウちゃんは、アレゴリーって聞いたことはあるかな」
マ「はて、アレゴリー」
梓「寓意と訳される。絵画の中に描かれたモノが、別のなにかをたとえる役割のことを指す。たとえば船と手紙」
梓「どうしてこの絵画のタイトルが『恋文』になるか、気にならないかい」
マ「たしかに。手紙を持っているだけです」
梓「女性たちの背後に、船の絵が描いてある。当時、海を行く船は恋人のたとえとして知られていたから、この2つが合わさると恋文になる」
マ「はて、『真珠の首飾りの少女』に似たタイトル」
梓「フェルメールは真珠を数多く描いた。だけど、現世の世界で自分を着飾るだけの行為は虚しいものだ、ということで真珠はそのまま虚栄を表すこともある」
マ「はてはて! この女の人はただただ、真珠のネックレスをつけて喜んでいるだけに見えますけど」
梓「よく見ると、女性の視線の先には鏡がある。真珠をつけて映える自分の姿に浮かれても、死後の世界まで持ち越すことはできない、虚栄に過ぎないというわけだ」
マ「厳しい説教みたいなテーマを絵の中に入れているんですねえ」
梓「もともとキリスト教社会には、ヴァニタス、つまり現世の空虚さを説いて、謙虚に生きることを推奨する側面があった。そして、プロテスタントとは、腐敗したカトリック世界への反発として『キリスト教の原点に立ち返ろう!」という運動から生まれたものだからね」
マ「絵画にも、そういうストイックさが反映されている、と」
梓「天秤は、大天使ミカエルの持ちものとしても知られる。人の魂の重さを天秤で量り、天国行きか地獄行きかを振り分ける。そこから、天秤は正義の象徴ともされた」
マ「この絵そのものが、正義を表しているんですねえ」
梓「加えて、本来重りを量るためにある天秤の上にはなにも乗っておらず、天秤は水平を保っている。虚栄を表す真珠は横に打ち捨てられたままだ。虚栄を遠ざけ、正義を重んじることを説いているのかもね」
マ「またまた、ヴァニタス、ですね。覚えましたよ~、おらおら~」
マ「この絵はもう、タイトルに『寓意』ってついてますねえ。たしか、アレゴリーが寓意って意味でしたよね、覚えましたよお」
梓「この絵画はアレゴリーの宝庫なんだ」
梓「イエスの磔刑図は、敬虔な信仰を表す」
梓「磔刑図がかけられているだけでなく、部屋の中に十字架も飾っているあたりに信仰の深さがうかがえる」
マ「連理梓さん、さっきの磔刑図の手前に、ガラス球が吊るされてます」
梓「いいところに気がついたね。女性が見つめているのもこのガラス球だ」
梓「これは、人間の悟性のシンボルと言われている。よくよく見ると、室内の様子が描きこまれている」
マ「芸が細かいですねえ」
梓「床にはリンゴと潰れたヘビが転がっている。リンゴは原罪を表す。そして潰れたヘビは、悪に対する勝利だろう」
マ「ちなみに、大げさに地球儀を踏みつけているのは」
梓「大げさな身振りは寓意の図像集からとられた、信仰そのものの擬人像だと言われている。地球儀には当時オランダの総督だったオラニエ家をたたえる文章が載っているんだ」
マ「1つの絵の中にもいろいろな意味があるんですねえ」
梓「アレゴリーを覚えると、絵画を見るのが一段と楽しくなるから、絵画展に行くたびに調べてみたり、ちょっと予習してから絵画展に行ってみたりすると、また違った見方ができるかもね」
この記事のまとめ
梓「今回は次の3つのことを覚えておくといい」
①バロックの時代に、穏やかな絵画を描いたのがフェルメール
②フェルメールの絵画のキーワードは「光の粒」「平面の構図」「ウルトラ・マリン」
③絵画にはアレゴリーと呼ばれる比喩がこめられていることもある」
マ「これならマンボウでも覚えられます、はってはて♪」
≫筆者:連理梓
※「はてはてマンボウのブログ」は移転しました。
はてはてマンボウの 教養回遊記 (hatehatemanbou.com)
参考文献
〇『男の隠れ家美術シリーズ 静謐と光の画家 フェルメール』(三栄書房)(2018-10-07)
〇シュナイダー・ノルベルト(2006)『フェルメール』(TASCHEN)
〇福岡伸一監修(2015)『フェルメール 光の王国展』(フェルメール・センター銀座 実行委員会)
〇宮下規久朗(2015)『しぐさで読む美術史』(ちくま文庫)
〇宮下規久朗(2013)『モチーフで読む美術史』(ちくま文庫)