《解説》ありふれた日常をそのままに╿絵画を語るとき我々の語ること⑦写実主義

こんにちは、はてはてマンボウです。前回までは、新古典主義とロマン主義、正反対の2つの西洋絵画の世界について教えてもらいました。今回は一つ先の写実主義について教えてもらえるみたい。

理論とロマンのせめぎあい╿語るとき我々の語ること⑥新古典主義とロマン主義
↑「古典なのに新古典ってどういうこと?」「ロマン主義について知りたい!」という方は、こちらの記事もチェックしてくれ~。まあんぼう~

梓「さて、美術を担ってきたフランスのサロンに対する反発が生まれ始めるのが写実主義だ」

マ「あ、連理梓さん。反発を繰りかえして進んできた美術史も、いよいよ19世紀後半ですね」

梓「日常こそが美しい!」

マ「まぼ。なんだかマンボウのようなのんびりしたお魚には、やさしいテーマ」

梓「日常的で現実的なテーマを描き出そうとしたのが、写実主義なんだ。この様式をもっともよく表しているのが『天使を描いてほしいなら天使を連れてこい』というクールベの言葉だ」

マ「はて」

梓「目の前にあるものしか自分は描かないという、写実主義の強い意志が表れている」

マ「のんびりしているかと思っていたら、意外と挑発的ねえ」

梓「さて、今回も大塚国際美術館の絵画を中心に解説していくよ」

空想から現実へ╿ロマン主義は写実主義の時代へ

マ「うわあ、田舎の日常が。これまではあんまりなかった絵画ねえ」

梓「これはローザ・ボヌールの『ニヴェルネ地方の耕作』。ギリシャ・ローマを崇拝する理知的な新古典主義に反発して生まれたロマン主義も、空想の世界を題材として扱っているのには変わりない」

マ「あ、これは見たことあります。ミレーの『晩鐘』ですね」

梓「一日の終わりの農村に晩鐘が響くなか、耕作の手を止め祈りをささげる農民たちを描いている」

マ「へえ、タイトルにそんな意味があるとは」

梓「19世紀の半ば、当時のアカデミーでは歴史画を頂点とする風潮が強かった。それは、ルネサンス万歳の新古典主義、ダイナミズムあふれるロマン主義ともに変わらない。そこへ生まれたのが、日常的、現実的な様子を描いた写実主義だった」

認められないなら世界初の個展を開け! クールベのレアリスム宣言

梓「写実主義を代表するのが、ギュスターヴ・クールベ。この『エトルタの断崖、嵐の後』に代表されるように、海の画家としても知られる」

マ「なんでもない風景が、明るい感じで描かれてますねえ」

梓「クールベも、出てきた直後はその日常を表したアングルやドラクロワに認められる」

マ「えっ、すごいじゃないですか。新古典主義とロマン主義の重鎮たちですよ」

梓「だけど、描いていく絵画がだんだん大きくなっていく。テーマは日常のままなのに。すると、調子に乗りすぎたのか、反感を買われていくんだね」

マ「『その辺をちょろついているぐらいならよかったのに、目立つようなことするな!』ってことですかねえ。やっぱり歴史画が一番の時代だったんでしょうか」

梓「だけどそこでくじけないクールベ。アカデミックな権威が作品を集めて展示会をする時代にあって、知ったことかと個展を開く。これが、世界初の個展だと言われているんだ」

マ「反逆児ですねえ」

写実主義とはどう違うの? 自然主義の画家たち

梓「これはトロワイヨンの『高地へ向かう牛』。農民たちの様子を表す自然主義の絵画として知られる」

マ「連理梓さん。マンボウ、自然主義と写実主義の違いがよくわからないのですが、はて」

梓「特に区別されずに使われることもあるけど、写実主義の絵画のなかで、特に自然の様子が描かれているものを自然主義絵画と呼ぶ」

マ「あ、そのまんま」

梓「その自然主義の画家のうち、フランスのバルビゾン村近辺に移り住んだグループをバルビゾン派と呼ぶ」

マ「まぼ。なんだかややこしくなってきたような」

梓「写実主義>自然主義>バルビゾン派という関係だ。魚>フグ目>マンボウというのと同じ」

マ「あ、またまたミレーですね。今度は『落穂ひろい』」

梓「ミレーは、バルビゾン派を代表する画家として知られているね」

あれ、印象派じゃないの? 印象派に影響を与えたマネ

梓「さて、写実主義の最後はマネを紹介しよう。これは『笛を吹く少年』だね」

マ「はて、マネって印象派の画家だと思ってました」

梓「マネは印象派へ大きく影響を与えた画家なんだ。西洋絵画の伝統を破っている絵画を描いた」

マ「はて、これのどこが伝統と異なるんですか」

梓「西洋絵画の基本は遠近法と陰影法。これを否定したんだ」

マ「まぼ、唐突に懐かしのルネサンスが」

梓「ルネサンスの時代に発達したのが遠近法。『最後の晩餐』ではイエスの頭の上に焦点が集まるように描かれていた」

梓「そして、ダ・ヴィンチが発明したのがスフマートというぼかし技法。輪郭部分をぼかして描くことで、絵画に滑らかさを与えていた。さて一方でマネの『笛を吹く少年』はどうだろう」

マ「なんだかのぺっとして平面みたいです。少年にも輪郭がありますし」

梓「マネが活躍していた時代のアカデミーの絵画と比べるとよくわかる」

梓「サロンで称賛された、カバネルの『ヴィーナスの誕生』だ」

マ「うわあ、すっごく滑らか」

梓「一方で、同じサロンで落選となったマネの『草上の昼食』を見てほしい」

マ「裸の人が、おじさんたちとおしゃべりしてますね。まあ、女の人だけが裸なのはおかしいですけど、これまでの絵でも裸の人は、いましたしねえ。なんで落選したんですか」

梓「その、普通の人たち、というのに問題があった

マ「はて」

梓「これまでのアカデミックな絵画において、裸の女性が描かれていたのは、歴史画においてのみだった。歴史上のとある世界、すなわち、ここではないどこかを描いているのだというエクスキューズがなければ、裸体の女性が世間に受け入れられなかった」

マ「神話の世界だっていうのがわかれば、裸体を描いてもよかったのに。そんな簡単に、頭をぱっぱっと切り替えられるものなんですかねえ」

マ「ティツィアーノも、古典を題材にしているから、裸で描いても許されてるんですねえ」

梓「さて、マネはくじけない。ティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』を踏まえた作品を描く」

梓「それが『オランピア』。だけど結局叩かれる。現実の娼婦を描くなんてけしからんとね」

マ「まぼ。かわいそうねえ」

梓「だけど、マネのスタイルそのものは印象派のリスペクトを受けて、彼らへ受けつがれるんだ」

この記事のまとめ

梓「今回は次の3つのことを覚えておくといい」

①空想に反発して生まれたのが写実主義

②写実主義のうち、自然の風景を描いたのが自然主義

③マネの絵画は印象派の先駆けとなった

 

《ページ内リンク》
☆大塚国際美術館 概説「丸1日楽しめる世界の絵画╿徳島県 鳴門市の大塚国際美術館」

☆美術史 解説
・古代
・中世
・ルネサンス
・バロック
・ロココ
・新古典主義とロマン主義
・写実主義
・印象派
・象徴主義

≫筆者:連理梓

※「はてはてマンボウのブログ」は移転しました。

はてはてマンボウの 教養回遊記 (hatehatemanbou.com)

参考文献
〇大塚国際美術館・NHK文化センター・有光出版株式会社(1998)『西洋絵画300選』(有光出版)
〇城一夫(2012)『常識として知っておきたい「美」の概念60』(パイ インターナショナル)
〇早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
〇山田五郎・こやま淳子(2015)『カラー版 ヘンタイ美術館』(ダイヤモンド社)

 

 

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